Water Library 019

・・水のほん“Water Library ”・・・

~・~・水にときめいて・~・~

 

著者の高橋裕先生は1927年(昭和2年)生まれの河川工学者です。前著『国土の変貌と水害』(1971年)をもとに本書『都市と水』が出版されました。著書にはほかに『河川工学』、『水のはなし』などもあります。

 

本書は1988年発行で、初版から約30年経過しているわけですが、その間に高橋さんが本書で指摘されたような水の環境がどれだけ改善、進歩したかというと、一部には成果もみられますが、まだまだという感もあります。水環境についてのさまざまな問題について既に30年前に指摘されていたことに感嘆します。

 

では、当時本書で、高橋さんはどんなことを話していたか、要約や引用をまじえながら、ご紹介したいと思います。

 

 

Ⅰ 水の戦後史

 

戦後の水や河川の変遷をながめてみると、以下のようになっている。

第1期(1945年(敗戦の年)~1959年)…大水害頻発時代

                    洪水対策を最優先する治水の時代

第2期(1960年~1972年)…水資源開発、利水の時代

第3期(1973年(オイルショック)~現在)…安定成長の時代

                    景観を含む水環境への関心

                    “水環境”重視の時代

1971年 水質汚濁防止法制定

1984年 湖沼水質保全特別措置法

1980年代 「おいしい水」ブーム

 

水と日本人をめぐる激しい変転を見ると、行政側の重点、住民側の関心が時代とともに変転してきたとはいえ、いつの時代においても、治水、利水、水環境はいわば水の三本柱ともいえる重要な要因で、いずれも軽視してはならない。というよりは、むしろ、これらの三要素をいかに調和させるかが、水とのつきあいで最も重要なことである。

しかも、厄介なことに、一つの要素にのみ都合の好い方法が、他の要素にとっては具合の悪いことが多く、利害はむしろ相矛盾するのがつねであるといえる。したがって、その調和に水への対応の核心がある。それはきわめて複雑かつわずらわしい面を含むものであるが、味わい深い自然と人間の関係の典型であり、われわれにとっても永遠の課題であろう。(p34)

 

 

Ⅱ 都市化と水害の変貌

 

・最近の都市水害の特徴と対策

1982年7月23日の長崎の豪雨では、約2万台にのぼる車の被害、ライフラインや通信施設の被害が甚大だった。災害時用の施設そのものの防災手段が機能しなかったことや、河川堤防が整備されるにしたがって、人々は堤防ぎりぎりまで耕地や住居をひろげ、破堤した場合の被害はとめどもなく拡がっていることを警告。

 

・新しい都市治水の手段として、地下分水路と多目的遊水地

地下分水路とは、地下に造る新しい川であり、これによって増大した洪水流量に対処している。神田川沿いの道路下に新たな地下分水路を造り、実質的に河道断面積を一挙に2倍以上にしたことに相当する。しかし、この方法は残土処理や高価な工事費に難点がある。多目的遊水地も全国の浸水に悩む都市で作逐次建設されつつある。

 

・雨水の貯留

また、下水道における大雨対策に、雨水浸透や雨水貯留があり、河川や下水処理場へ殺到するのを和らげるためにさまざまな方法が行われている。

 

・警報情報システム

大雨が降った場合の大雨注意報や警報のあり方や、小区域の防災組織の必要性、防災情報伝達のシステムについても問題点がある。過去の経験をいかして、山崩れ土石流、地震、火山爆発の前兆をよむことも尊重すべきだ。

 

 

Ⅲ 水をどう利用するか

 

将来の水資源開発はダム以外の種々の方法を進めていく必要がある。多種多様な手段を各地域の特性にあわせて併用しつつ、今後の水需給のバランスをとっていくべきだろう。

 

まず第一に推進すべきは水の再利用である。

水道で供給されている水のうち、飲料はわずか1パーセントにすぎず料理を加えても数パーセント程度で、大部分の雑用水には一度使った水を再生するという発想である。しかし、新たな配管が必要になるので現実的には困難であるが、新築時に前もって二重配管にしておけば、雑用水利用が可能になる。しかし、まったく新しい形態のため法律制度がなく、しかも水行政は、多数の官庁に関係しているため、行政間の調整が困難で成功せず、地下水法案などお蔵入りになった法案は数多い。雑用水事業が上水道、下水道、工業用水道などの中間的位置にあり相当困難であろう。

 

85年3月環境庁による「名水百選」発表、同年4月厚生省による「おいしい水」の基準が発表され質の良い水への期待と要望が高まってきた。水道水のまずい水を経験して「昔の水に返してほしい」というのが、おいしい水を求める声となった。元来、日本の自然水の味は良く清らかにして豊かであった。各国の船員は、神戸や横浜など、日本の港で水道水を積み込むのを楽しみにしていたという。日本の水が外国と比べておいしかったからである。

戦前、ヨーロッパ方式の緩速ろ過法で浄水処理され水道水がおいしかったが、戦後アメリカ方式の急速ろ過法に転換され、高度成長期の水需要もあり、急速ろ過法が普及した。

衛生行政や衛生工学の分野で戦後アメリカの指導や援助を受けた恩恵は認める。とはいえ、盲目的に受け入れた感もある。日本の水環境は今日では著しく異なっているから、技術や行政でも思い切った変革を、現代の日本の水需要に適した手法で断行すべきである。

どうすれば、水は昔からの世界に誇れるくらいおいしい水になるか。

まず、いまなお緩速ろ過法を墨守している浄水場は数少ないが、そのまま継続し良い味の水を供給してほしい。

さらに地方都市で用地に余裕があれば緩速ろ過法に再びもどすことを考えられないであろうか。といっても、昔のままの緩速ろ過法に戻すのは無理であろうから、原理的には緩速ろ過法に則りつつ、中速化にろ過速度を早めるなどして弱点を克服する。

 

重要なことは上水道と下水道を、水循環のなかに一体として捉える考え方を確立することである。借りたものは、なるべく元の状態にして返すのが、自然と付き合う基本的作法である。開発はしばしば自然の水循環を切断せざるを得ないが、切断しても可能な限り早く自然の水循環に戻すか、本来の水循環を根本的に乱さないような計画を樹立すべきである。(p144)

 

 

Ⅳ 自然の水循環をもとめて

 

都市化が、都市の河川、水路、運河、湖沼などの水域の水質を汚染させることはここに紹介するまでもない。その水質汚染は地下水まで及んでいる。

80年代になるや、深層地下水の汚染(有機塩素化合物の溶剤であるトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)を確認している。

地下水は清浄美味という点がすぐれており、全国の水道水源の27パーセント(84年)にも達しており重要な水源である。なればこそ、量的にも過度な揚水にならぬようにし、地下に戻す場合は汚染を防ぐ万全の注意を払うべきである。

地下水の汚染源は、半導体、金属、電気関係の工場、クリーニング店、廃棄物投棄などといわれている。

 

 

Ⅴ 都市化社会の水文化

 

都市の中心を流れる川は、都市の変遷を忠実に反映して、その顔を変える。川の在りようを見れば、その都市がどんな状況であるか、川を大事にしているかどうか、水と川の文化に対し、その都市がどんな姿勢を持っているかを察することができる。(p196)

開発によって変形する必要のある場合も、それによる水循環の変化に対応する手段を、可能な限り、その地域の水の特性を踏まえて用意するようにしたい。(p203)

 

昔から不安定な気象現象と付き合っていた日本人は、少々の予測外れには、生活や農耕の面で臨機応変に対処する術をよく心得ていたといえる。また、水をめぐる四季の変化の兆を先取りする感覚、風流な感性に長けていたといえよう。日本列島の水の豊かさと微妙な変化こそが水の文化を支えている基盤であろう。その変化とは当然一挙にあふれ出る洪水の恐ろしさが重要な要素となっている。

 

水郷の福岡県柳川の水路再生は、下水路係長広松伝さんの「水路こそ、柳川の命。水路は一度失えば、永久に戻らず、柳川も衰えてしまう。水路を昔に返そう」という熱意に、市長が一度決めた計画を撤回し、市民の連帯感を得た。

一般に、行政が一度決めた計画の撤回は容易ではない。もちろん、計画は簡単に撤回すべきではない。しかし、社会経済の変遷が激しく、価値観、社会のニーズが急速に、あるいは次々と変わっていく現代では、一度定めた計画でも、その後の社会の変化によって、その目的の意味が薄れれば、撤回を躊躇すべきではない。撤回こそ勇気ある判断と評価すべきであろう。

 

戦後40年、急成長は激しい都市化によって可能であったが、一方において、それが日本の水文化を激しく揺り動かした。水文化をどう継承し発展させるかが、これからの重要な課題である。(p212)

 

 

以上が、本書からの抜粋、要約ですが、高橋さんは2015年Japan Praizeを受賞し、記念講演会で、次のように話されました。

 

信玄堤など戦国武将が治水を発展させて以来、中国や欧米に学びつつ日本の治水の歴史があり、近代日本の河川工学者がさらに工夫を重ね国土の治水を築き上げてきた。近代の河川事業に貢献した学者たちは強い個性と信念、公共事業はどうあるべきかという高く徹底した倫理があった。

 

現在、IT技術、計測技術、写真技術が発達しているが、

まず肉眼で五感をとおして河川を見る観察眼をやしなってほしい。

小洪水であっても次にやってくる大洪水の前兆かもと、

まず、河川に立ってながめて、

自然感を高めることや先人たちの治水事業や歴史を学ぶことを若い人に期待したい。

 

 

 本書で高橋先生が30年近く前に緩速ろ過の浄化法について高く評価していたことを、興味深く読ませていただきました。

さて、先日、紅葉の丹沢に囲まれた秦野市の水道を見学する機会がありました。秦野の盆地の地形は、地下構造が地下水を貯めておく「天然の水がめ」になっています。まちは、水の上に浮いているような状態ですが、まちの中央を流れる川は地形により伏流水となるため流量がすくなく水無川という名前です。

 

明治23年、横浜、函館についで全国で3番目に秦野に水道が創設されました。

昭和60年、環境省名水百選に選ばれましたが、地下水に有機塩素系化学物質を検出し、全国に先駆けて「地下水汚染防止及び浄化に関する条例」を制定しました。地下水汚染に対しては、工場からの汚染物質が入ってしまった地下水を人工透析のような装置で浄化してまた地下に戻すという方法で、かなりの改善がなされ、2004年名水復活宣言をしました。

 

水田かん養事業や、工場で冷却に使われた水を地下に戻して循環させる方法、雨水の活用や森林づくりなど、地下水を保全しています。

市の水道水源の7割が地下水で、ボトルドウォーター「おいしい丹沢の水 丹沢の雫」は2016年名水百選選抜総選挙『おいしさがすばらしい「名水」部門』で見事1位に輝いたそうです。空気もあまく、昼食にいただいたお蕎麦もとてもおいしく、先人たちが守ってきた水を市民共有財産として維持している誉れを感じました。

(2016/12/8)

 

PSHIZ07

 

参考:秦野市地下水総合保全管理計画(概要版)

【19冊目】Data

   都市と水

   高橋(たかはし) 裕(ゆたか) 著

   1988年8月

   岩波新書(新赤版)34

 

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