Water Library 016

・・・水のほん“Water Library ”・・・

~・~・水にときめいて・~・~

 

 

立松和平さんのこの本『野生の水―ヤポネシア水紀行―』は、1991年10月、今から25年も前に出された本です。

 

立松和平さんは1947年生まれで栃木県宇都宮市出身、早稲田大学政経学部を卒業し、紀行、ルポルタージュ、エッセイを多数発表し、放浪作家と称されました。その独特な風貌と笑顔、朴訥で穏やかな語り口でテレビ画面に登場し、茶の間にいる私たちに日本や世界の風土を印象づけてくれました。しかし平成22年、今から6年前に62歳で突然の多臓器不全のため、お亡くなりになりました。本書は、1988年以降1991年までに発表された、主に水にかかわる文章を中心にして編んであります。

そのなかから、気になる文章をひろいあげて今回ご紹介してみます。

 

◆北海道の四季

 

「この世で一番美しいものは何」

子供にこんな問いを向けられたら、私はどんな応え方ができるだろうか。人の魂、空、海・・・と和平さんはあげていきます。この目で見た風景のうちでいちばん美しいものとして、凍結した摩周湖、知床の流氷、釧路湿原の落日、波風のない宗谷海峡、吹雪の阿寒といくつも並べて、でもどれが一番と言われると応えようはないと言います。

アムール川河口で生まれた流氷が少しずつ育ちながら旅をしてくる。一点の汚れもない。精気あふれる流氷が海岸に押しよせ、一夜にして海がなくなってしまうのだ。流氷は純白に見えるが、よくよく見れば薄青い透明な光が透けてくる。と、北海道の冬の自然や生き物の姿と、人間の営みを書きとめています。

 

「つららが太くなればもうすぐ春だ」

こんな言葉をはじめて聞いたとき、私には意味がわからなかったとおっしゃています。美しいが厳しくて長い冬を過ぎ、春を迎え、北海道の穏やかな夏、透明感にみちた秋。四季折々の北海道の色彩をつづっています。

 

◆木を植える漁師

 

佐呂間町の佐呂間漁協が、農水省主催の農林水産祭で林業経営により農水大臣賞を贈られた。ホタテ貝の漁場であるサロマ湖を守るために、5キロほど奥地に64ヘクタールの山林を持ち、荒廃した山にトドマツやカラマツなどを植樹して、見事な森を育て、それが林業経営としてすぐれていたので、表彰された。

 

昔から魚は森につくといわれていた。

水はすべて森でつくられる。ここで見落としてはならないのは、水の中の生物の宇宙だと和平さんは言います。一滴の水の中に棲んでいる微生物はより大きな生物の餌になる。すなわち、食物連鎖で循環していること。その最終段階に人間が位置していて、人間が死ねば微生物に食べられて分解される。これを読みながら。人間の行為によって現在その食物連鎖の循環は断ち切られていないか大丈夫だろうか、ちょっと心配だなと感じてしまいました。

 

◆旅は道づれ

 

水はそれほど飲めるものではないが、少しでもいいからうまい水で喉をうるおしたい。これが旅の最高の楽しみだと思うようになったと、和平さんがおっしゃいます。水はその風土の精髄なのであると断言されています。そして、最近なんともうまい水を飲んだそうで、その水はなんとバイカル湖の水。深さと透明度は世界一。地球上の淡水の20パーセントがここにあるそうです。

 

何もかもが澄みわたっていて、この世のものとも思えない静謐な風景。動くのは船と私たちだけ。

ロープをつけたバケツを甲板から投げてくんだ水をコップですくって飲んだそうで、なんともうまい水。この味を忘れないだろうと記しています。水といえばバイカル湖を思い出すことだろうと締めくくっています。

 

◆一滴の水から

 

イルクーツク文学の家で、ワレンチン・ラスプーチンは、このように口を切った。「この頃、環境問題が緊張感とともにむかえいれられています。危険が子供の世代にではなく、自分の世代にあるのです。理性的な人間が気狂いになってしまった。水、空気、土が病気になってきた。チェルノブイリ原発事故以来、平和な原子力などないということがわかってしまったのです。人間が自分の精神を失い、物質にばかり執着するようになってしまいました。自分自身への信頼を失い、身のまわりに責任者を探してばかりいるのです。・・・」

 

私たちはバイカル湖に集まった。水に映る世界を眺めれば、私たちが生きている世界がわかるからだ。バイカル湖畔にある湖沼学研究所所長グレゴリー・ガラージンの話によると、「・・・今、世界の平均給水は一人当たり100リットルです。国際医療センターの統計によると、世界の総人口の1割が自然の水を使っています。地球の生活は自然の水からはじまります。総人口の9割が自然とは違う構造の水を使っているわけです。地球には新しい病気、特にアレルギー疾患がでて、たくさんの金が使われます。病気の原因は純粋な水が使われていないことです。生活のすべては、水によっておこなわれます。水の構造が変わるということは、我々の存在の根を切り、我々の生活の土台を破ることです。・・・」

 

これに続いて、和平さんはセヴァン湖や琵琶湖の惨状を述べて、結局は、「この水(拙者注:琵琶湖)に民族の未来がかかっている」というアルメニア人ゾーリ・バラヤンの発言を引用しています。

ラスプーチンの言葉「世界共通の水に自分の清い水を一滴一滴そそぎ込むことによって、私たちは身近な川や湖、つまり神聖な場所を清めることができます。それをぬきにしては何もすることができません。とにかく地球は汚染で包まれています。これは悲劇なのです。この汚水を取り除いていかねばなりません。水を清めることで、私たちは人間を清めていかねばなりません。」

一滴の水の汚れが、実に様々な影響を及ぼすものである。と、和平さんはこの章の最後に述べています。

 

◆祈りの水――あとがきにかえて

 

私は日本の旅が好きである。

ヤポネシアは水でできた列島だと私は気づいてきた。

ヤポネシアという言葉にはなんとも美しい響きがある。

水が湧くためには、もちろんその奥に巨大なメカニズムがある。

この水が生物の宇宙をつくる。

農業を支え、人の富をも養うのである。

水は壊れやすく、また移ろいやすいものである。

わがヤポネシアにこの水が永遠たれと、私は祈る。

この祈りが私に文を書かせつづけている。

と、結んでいます。

 

 

和平さんの祈りが通じたのか、以前より水がきれいになってきた川もあります。多摩川では鮎が復活し、河口ではシジミが大量発生したそうです。しかし、福島の原発事故以来、放射能に汚染された水は制御できず、太平洋の海へと垂れ流しになったままで、水を汚す前に、汚さない方法を考えなくてはならないと、この本を読みながら思いました。16日(日)に行われた新潟県知事選挙は、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に反対していた無所属新人で医師の米山隆一氏(49)=共産、自由、社民推薦=が、前同県長岡市長、森民夫氏(67)=自民、公明推薦や、海事代理士の後藤浩昌氏(55)、また、元団体職員の三村誉一氏(70)の3新人を破って初当選しました。7月の鹿児島県知事選で九州電力川内(せんだい)原発の一時停止を求める三反園訓(みたぞのさとし)氏が当選しています。

政府の原発政策に影響を与える可能性がでてきたとみられています。未来のヤポネシアが美しい水の国でありますように、和平さんの願いがかないますように。

 

PSHIZ05

(2016/10/18)

 

【16冊目】Data

     野生の水 ―ヤポネシア水紀行―

     立松(たてまつ) 和平(わへい) 著

     平成3年10月

     株式会社スコラ発行

 

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