Water Library 015

・・・水のほん“Water Library ”・・・

~・~・水にときめいて・~・~

 

 

環境問題などに関心がある方の愛読書にとりあげられる『センス・オブ・ワンダー』、すでにご存じの方が多いかと思いますが、あらためてご紹介させていただきます。

 

レイチェル・カーソンは、1907年、アメリカのペンシルバニア州スプリングデールに生まれました。

少女時代は作家になることを夢見ていましたが、進学したペンシルバニア女子大学では生物学を専攻しました。ジョンズ・ホプキンス大学大学院で、当時周囲の科学者はほとんど男性でしたが、紅一点修士号を取得し研究を続けていたところ、28歳の時に父ロバートが亡くなりました。アルバイトでラジオ番組の台本を執筆するなどして、母や亡くなった姉の二人の子どもを支えるために働かざるをえなくなりました。翌年29歳の時、公務員試験にトップで合格、内務省の魚類・野生生物局の生物専門官の勤務となり、そこで海洋資源などを解説する広報紙の執筆と編集に就くことができ、彼女の文学的才能は公務員生活の傍ら、次第に作家活動をスタートさせていきました。

 

34歳で『潮風の下で』を出版、44歳で出版した『われらをめぐる海』や48歳で出版の『海辺』など、いずれもベストセラーとなりました。かの有名な『沈黙の春(Silent Spring)』は、51歳のときに執筆にとりかかりました。

この本を著すきっかけとなったのは、レイチェルの友人から届いた1通の手紙がはじまりでした。その手紙は、役所が殺虫剤のDDTを空中散布した後に、彼女の庭にやってきたコマツグミが次々と死んでしまったという内容のものでした。

レイチェルにとって当時、その年にレイチェルの姪のマージョリーが亡くなり、遺児のロジャーを養子に迎えたところでした。この手紙に衝撃を受け、執筆のため膨大な資料をまとめる仕事にとりかかったレイチェルは、まもなくかなしいことに母マリアも亡くなり、彼女もつぎつぎと病気にかかり、53歳のときには胸部にガンがみつかりました。4年の歳月をかけて、寝たきりになりながらも、『沈黙の春』を脱稿し、1962年55歳の時に、単行本として出版にこぎつけました。そして、のちにこの本が大きな反響を呼び起こすことになります。

 

『沈黙の春』とは、農薬や化学薬品によって生き物も人も死んでしまい、鳥が鳴かなくなり、物音ひとつしなくなった世界、自然が沈黙した春のこと、いつか訪れるかもしれないそんな世界のことです。

化学薬品は放射能に劣らぬ禍をもたらします。

 

第二次世界大戦中、人を殺すための兵器開発の研究から合成殺虫剤が発明されました。これは戦前に使われた無機系の殺虫剤より生物により大きな影響を及ぼします。とくに、水がこの殺虫剤に汚染されると、畑や森林から地面にしみこみ、川へと流れていき、海が汚染されます。また、地下水で運ばれると汚染されていない地域まで及んでしまいます。

水は循環しています。「水は生命の輪を切りはなしては考えられない、水は生命をあらしめるのだ」とレイチェルは言います。水中の物質は食物連鎖によって濃縮されて、次から次へと生物を死へと至らしめる。環境汚染がめぐりめぐって自然生態系や次世代に与える影響について、レイチェルは警鐘を鳴らしたのでした。

 

『沈黙の春』が出版されると反響の嵐を呼び、化学業界、農薬協会から激しい非難や反撃を受けました。米国政府はDDTを1972年にようやく全面禁止にし、世界中で農薬を規制するようになりました。本書は、世界を変えた1冊ともいわれています。

 

さて、レイチェルはこの本を書き終えたとき既に病魔にむしばまれ、自分に残された時間がそれほど長くないことを知っていました。1956年49歳のときに発表した女性雑誌のエッセイ「子供たちに不思議さへの眼を開かせよう」をもとに、最期の仕事として『センス・オブ・ワンダー(The Sense of Wonder)』の執筆にとりかかります。

 

しかし、単行本として出版する予定がついに成し遂げられることができず、1964年56歳の4月に生命の灯は燃え尽き、この世から旅立ったのでした。友人たちは彼女の夢を果たすべく原稿を整え写真を添えて、翌年1965年に本書が出版されました。

 

この本は、レイチェルの姪の息子、幼いロジャーに向けて書かれたもので、やさしい言葉で語りかけるように自然を描いています。それは遠い昔、スプリングデールの田園地帯で過ごしたころの幼いレイチェルと母マリアが森や野原を歩いていたやり方と同じであったそうです。母マリアはレイチェルに自然の美しさや神秘をじっと観察することを教え、あらゆる生き物が互いにかかわり合いながら暮らしていること、どんな小さな生命でも大切なことを感じ取らせてくれたのであった(訳者あとがき p58)

 

このたった60ページほどの冊子のような本書には、大切なメッセージが込められています。本書をひらくと、秋の嵐の夜の海岸に、1歳8か月になったばかりのロジャーを毛布でくるんで暗闇を歩いていき、幼いロジャーとわくわくする興奮で笑いあった様子からページがはじまります。

カニや植物や貝、リスやウサギなどの生きもの、月や海面や夜空のすばらしい光景。雨の日の森。星の名前を知らなくても、子どもたちといっしょに宇宙のはてしない広さに心を解き放ち、ただよわせるという体験を共有すること、そして、子どもといっしょに、いま見ているものがもつ意味に思いをめぐらし驚嘆することができること。数々の自然の魅力の記憶が、どれだけ子どもの心を豊かにしてくれるのかを教えてくれます。

 

「子どもたちの世界はいつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています」(p23)

 

しかし、大人になるうちにそうした感性はにぶってしまいます。

 

「人間を超えた存在を認識し、おそれ、驚嘆する感性をはぐくみ強めていくことには、どのような意義があるのでしょうか」(p50)

「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとにであったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけだすことができると信じます」(p50)

 

ロジャーの母代りだったレイチェルが実母のいないロジャーに伝えたかったことや、レイチェルがこの世から去ったときにロジャーの心の支えとなるであろうものは、限りなく慈愛に満ちた、また時には荒れ狂う自然の美しさと神秘であり、また、伝えたい気持ちを文字にしてしたためたレイチェルの思いやりであったろうと想像します。

 

つい先日のこと、横浜市のある保育園を見学する機会をいただきました。

園舎の内装は栗駒の国産木材を使っていて、小さな子供用の椅子やテーブルも無垢のままの木で作られていて、園全体が木の香りで包まれていました。日本の森の荒廃を耳にしますが、木材を活用することで森が手入れされ、将来の子どもたちに森を残すことができます。この園では都会で育つ子どもたちのために、自然を感じ自然の中で成長できるように自然体験を多く取り入れ、近所の緑地に出かけたり、バスで遠くの山や海に出かけていきます。

こんな保育園が日本中に広がったらすてきだなと感じた一日でした。

 

参考:レイチェル・カーソン日本協会HP

   『沈黙の春』レイチェル・カーソン 新潮文庫

 

(2018/10/18)

【15冊目】Data

     センス・オブ・ワンダー

     レイチェル・カーソン

   上遠(かみとお) 恵子(けいこ) 訳

     1996年7月発行   26刷新装版 2001年4月

      新潮社

 

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