Water Library 013

・・水のほん“Water Library ”・・・

~・~・水にときめいて・~・~

 

 

前回の水のほんで、神奈川県の西部真鶴半島の風景を少し書かせていただきました。今回は、相模湾の東側にある三浦半島の小網代の環境保全について、生物学者・岸由二氏と脳科学者・養老孟司氏の対談をまとめた本書『環境を知るとはどういうことか 流域思考のすすめ』という本がありますので、ご紹介させていただきます。

 

脳科学者の養老先生は1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入り解剖学者として活躍され、その後同大学名誉教授を務められました。脳科学や解剖学について、また雑多な知識などについてもわかりやすい文体で発表し世の中に普及させました。ご著作の一つ『バカの壁』(新潮社、2003年)はベストセラーとなり、当時日本中で話題になりました。

養老先生は子どものころから昆虫が好きで、好きな理由は「論理的に意味がわからないことがたくさんある(からおもしろい)」のだそうで、趣味が高じて箱根の別荘に「養老昆虫館」(虫御殿)を建てました。(設計は建築探偵、路上観察で知られる東京大学名誉教授、建築史家、建築家の藤森照信氏。個人の別荘のため一般公開はされていません。)

 

また、標本にしてきた虫を供養するために鎌倉の建長寺に、2015年、虫塚を建立し、6月4日の虫の日に虫供養を行ったそうです。(設計は建築家隈研吾氏)

「生き物は共生しなければ絶えてしまうものなので、人間も例外ではない。現代のような『虫がいなくなってしまう時代』に共生の意味を問い直すきっかけにでもなればいい」と話されています。(…ネット版産経ニュースより)

 

最近では先生の猫好きも有名で、飼い猫であるスコティシュフォールドのオス猫の“まる”くん(:猫の営業部長)と先生とが鎌倉のご自宅でくつろいでいる写真が本や雑誌、DVDとなり、注目を集めています。まるくんのクールな瞳と、ぽよんどっしりたっぷりした体型と自由奔放な行動の、妙なバランス加減がおもしろく、豊かな仕種や表情の養老ワールドにますます親しみを感じさせてくれます。

 

「人間というものは、結局自分の脳に入ることしか理解しえない」…『バカの壁』より

人は知りたくないことは耳をふさいで聞かないという習性がありますが、その延長線上に民族間の戦争やテロがあると養老先生は言っています。

 

一方、生物学者・岸由二氏は、1947年東京生まれ。小網代野外活動調整会議代表理事、慶應義塾大学名誉教授、理学博士。進化生態学、流域アプローチによる環境保全、都市再生、環境保全を専門とされ、都市再生活動の推進者として知られています。

岸氏は人間、ホモサピエンスは相互に協力して木の実を採集し、大きな生物を捕える「社会性の採集狩猟哺乳類」に育つように進化してきたと言います「幼児は、誰でも土や、水や、植物や動物に“触る”のが大好きです。少し大きくなると身近な生物などを“捕まえたい”と思い、ママゴトなどにも夢中になります。」

本来、人間には地球人としての感覚が宿っているはずなのに、生物多様性破壊、温暖化豪雨時代の危機が深刻化している今こそ、人は採集狩猟の感性を取り戻す必要がある、そんな教育は、ビルの立ち並ぶ都市の中でも可能だと岸さんは言います。(…THE HUFFINGTON POST 2015.5.1)

 

戦後、鶴見川周辺が開発され汚染が進みましたが、現在ではかなり改善されているようです。この成果は、岸さんのご尽力があったからこそと言われています。

 

そんな岸先生と養老先生の御二人による対談、そして竹村公太郎氏(元河川局長)も参加された本書は、まず第1章に“ 五月の歩く小網代”と称し、カラー写真をまじえて小網代の自然について紹介しています。

 

二人が訪れた初夏のこの時期は、北の谷は水が豊富で、シダ(アスカイノデ)が鬱蒼と茂り、トンボやベンケイガニ、エビやアメンボ、カワニナ、ルリシジミに出会ったり、ハンノキ林やヤナギの林を歩いてキノコを発見したりして、臨場感たっぷりに様子が描かれています。

谷の管理については木のことを考えがちですが、ここでは水の循環が大事だと岸さんは説明します。アライグマやニホンミツバチも生息する小網代は、三浦半島の先端にあるリアスの湾を囲む一帯の地域です。小網代では降った雨が森に下って川になり、上流・中流・下流で大きな湿原をつくり干潟になって、海に流れることで形成される「流域」の姿を全部見ることができるのだそうです。そうしたランドスケープのある場所は関東のみならず全国的にも多くないそうで、貴重な場所となっています。

 

しかし1983年、リゾート法制定により日本中で開発がすすみ、ここ小網代にもリゾート計画が持ち上がり、岸先生は「小網代の森を守れ」という市民活動に誘われました。「いい所だ、いい所だ」と宣伝しているうちに、いわゆる反対運動はしないで小網代の自然をアピールした努力が実り、小網代は2005年には70ヘクタールという規模で、国土審議会による「近郊緑地保全区域」に指定されました。

 

また、岸先生は「流域で都市再生を考える」という方向から流域活動をしながら地域生態文化論という理論の枠組みをつくり、政策の一部ともなりました。先生はそんな展開の全体を通じて、大人や子どもの大地に対する感覚がおかしいという気持ちを持ったそうです。「都市の市民や地域の文化にはどうして足もとの地べたのデコボコが見えないのか」ということが気になって考え出し、教育論や文化論として執筆しています。ふだん、見過ごしがちないろいろなこと、矛盾していることがこの本書でも取り上げられています。

 

たとえば、気になる見出しをあげると、

 ・脳は世界を入れ子構造で把握する

 ・人間は宇宙人の感覚で地球に住んでいる

 ・自然の予定調和は背きたがる

 ・なぜ日本にはお祭りが多いのか

 ・十万年のスパンで考える

 ・遊水池の必要性

 ・「水をきれいにすると魚や鳥が戻ってくる」は真っ赤な嘘

 ・愛する大地のある子どもを育てているか

 ・自然とは「解」である

 

くわしくは本文をご覧くださいませ。あらためて、自分たちの足もとをみるきっかけになりそうです。

 

そういえば、東京都民の胃袋、築地市場、豊洲移転延期のこと・・・食の安全性を考えれば、今回延期になって当然とも思いますが、それにしても東京ガスは市場に適さないと最初に言っていたそうで、盛り土にしても、なぜもっと早くおかしいと思わなかったのか。組織の風通しの良さ悪さや社会心理の影響という理由だけではすまされないような、税金の使い方になってしまいました。

本書では「現場との「ずれ」問題」という見出しで、すべてにおいて日本では、医療でも環境問題でも林業や流域のことでも採算がとれているかということが問題になる。けれど現場との間にはずれが生じていて、そのギャップの起った結果がいまの状況となっていると書かれています。

話は飛躍しますが、「十万年のスパンで考える」では、環境の変化に合わせて虫も変わっていくと養老先生が話し、いまは温暖化というより寒冷期に入っていて、もうじき大氷河期が来る、今日の話題は何万年何十万年の時間軸の話題だが、世の中は1年先、半年先、四半期先の話題ばかりですと3人で話し合っています。この先将来、もしかすると、人間も環境に応じてだいぶ変化しているのかもしれませんね。

(2016/9/23)

 

PDOU18

【13冊目】Data

 環境を知るとはどういうことか 流域思考のすすめ

 著者 養老孟司・岸 由二

 PHPサイエンス・ワールド新書

 PHP研究所 2009年10月

 

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