Water Library 009

・・・水のほん“Water Library ”・・・

~・~・水にときめいて・~・~

 

 

今回は暑さをしのぐために、『雪』という本を選びました。

 

7月なのに雪の話で、「!?」と思われたかもしれません。

 

7月に雪が降るというのは、世界的に見るとけっしてめずらしいことではありません。南半球のいまの季節は冬ですし、海抜の高いシルクロードや富士山の頂上付近では、7月に雪が降るのだそうです。富士山の初雪が7月に観測されることもあるようです。しかし、今年は北半球も含めて世界各地で7月に大雪が記録されました。また、反対に猛暑のために死者が出たりと、気候が極端になってきているようです。

 

つい先日の関東地方は、利根川水系のダムが干上がってきて、水不足が心配されました。水源近くの山に雨が降らずダムの水位が下がり、取水制限をするような事態になるかもということでした。ダムの水位が下がった原因は、最近雨が降らなかったからというだけでなく、この冬の記録的な雪不足が原因だということです。今年(2016年)の冬は、過去58年で最少の降雪量だったそうで、山は巨大なタンクといわれますが、例年だったらたくさん積もった雪がゆっくり融けてダムへと流れ込み、水を満たしてくれるのが、今年は水位が下がる一方で、さらに降雨量も例年の半分で、頼みの綱の台風も今年はまだやっと2号までしか発生していませんし、日本に上陸しないので雨が期待できません。この夏の水不足が深刻にならないことを願っています。

ダムの取水制限が進むと、農業用水も減らされて、米の収穫量が影響をうけます。取水制限がさらに進むと給水制限になり、減圧給水、時間給水をするなどして調整します。プールが使えなくなったり、水撒きや洗車に不自由します。関東では、神奈川を除く1都5県が利根川水系を利用しているそうで、このような水源のあり方、水政策にも問題があるのかもしれませんが、そのことについては次回に譲ることにして本書『雪』に話をもどします。

 

著者中谷宇吉郎先生は、1900年石川県片山津町に生まれました。小学校を卒業した12歳のときに商人だった父親を失いましたが、その後も勉学に励み、1年の浪人生活も経験しながら(…のちに恩師の寺田寅彦先生から、「それはよいことをした。そういう経験は世の中を知る上においてめったにない良い経験だ」と言われたそうです)、1922年東京帝国大学に進学し物理学を学び、寺田研究室の助手になって、火花放電やX線を使った結晶構造の研究に従事し、1930年北海道帝国大学(現在の北海道大学)に助教授として赴任、札幌や十勝岳で雪の結晶の研究を開始しました。

 

世界に先駆けた雪の分類や人工雪についての研究を行う傍ら、随筆で有名な寺田寅彦先生のように自然と人間のかかわりを洞察した様々なエッセイや著述を発表しました。作品それぞれに心が沸き立つような優れた描写がなされています。本書の巻末には、解説者の樋口氏が、ファーブル『昆虫記』、ファラデー『ろうそくの科学』と並べてこの『雪』を名著にあげています。「雪は天から送られた手紙」は、中谷先生の有名な言葉です。

 

雪国生まれの中谷先生は、大雪にくるしめられる人々を知っていました。雪が人間に与える損害がいかにすさまじいかを語っています。一方、雪は人間の生活をおびやかすばかりでないと、災害をもたらす雪の別の側面、雪の利用の効果も説明しています。(本書「第一 雪と人生」)

中谷先生はほかの文章で「雪は資源である」という言い方もしています。

 

「第二 「雪の結晶」雑話」では、世界における結晶の研究の歴史、氷→水→水蒸気の関係と雪の生成機構について、雲について、粉雪についてなどなど、興味深い話が盛り込まれています。水蒸気が凝縮して雪になるには芯になるものが必要で、この生成過程を金平糖にたとえています。金平糖を作るときに、砂糖を溶かした中に芥子の実を入れて動かしていると金平糖ができあがりますが、雪も芯になるものがあって生長します。この芯になるものは空気中の塵や塩の微粒子またはイオンであって、この芯のことを物理では核と呼んでいます(p60~61)。

この核が上空高らかに存在しているのですが、この塵というのは私たちが普通に塵と呼んでいるものより遥かに小さいもので、大気中にはこの細塵が、如何なる場所、如何なる時にも充満しています。

「この細塵が太陽との合奏によってわれわれに青空を与えている」(p62)と、空がなぜ青く見えるのかも解説されています。

 

大気中の細塵やイオンは、雨とか雪とか霧の成因になるのですが、イオンの場合はラジウム類の放射性物質、紫外線などの作用を受けて電子が追い出されて陰イオンになったり、残りの陽イオンになります。これらのイオンが水蒸気の凝縮の核となることは細塵と同様ですが、細塵より凝縮し難いそうです。中谷先生のこの説明からすると、つまり、放射性物質が増加してイオンが増すと、水蒸気は凝縮されにくくなって降雨は少なるということでしょうか。

仮にそうだとすると、原発事故による放射性物質の垂れ流しは、放射性物質を大気にまきちらし、雨や雪をできにくくして気候が変わり、地球上の生物に影響を与える恐れはないのでしょうか。推測ですが、大気外に飛んで宇宙に影響を及ぼすことも考えられます。この件について、中谷先生に確認してみたいところです。

 

「第三 北海道における雪の研究の話」は、結晶の分類を研究する話が中心ですが、どのような実験を行ったかが詳しく書かれています。そのなかには実験の合間に見た景色が「冬の深山の晴れた雪の朝位美しいものは少いであろう」と書かれていて、中谷先生の言葉から、まるで、自分の眼前にまばゆい雪の銀世界がひろがってくるようです。一口に雪が降ると言いますが、様々な形をした結晶、これが高い空から絶え間なく降ってくるということです。中谷先生は、夜の闇の中、懐中電灯で頭上だけ一部照らし、いつまでも舞い落ちて来る雪を仰いでいるうちに、いつの間にか、自分の体が静かに空へ浮きあがっていくように感じたそうです。そんな錯覚におちいったことも記しています。

 

「第四 雪を作る話」は、人工雪を作る実験の話、それに続く「附記」で、この本についてのまとめが書かれており、若い人に向けてメッセージを送っています。たとえば、このように記しています。「まず自分の周囲に起っている自然現象に関心を持ち、そしてそこから一歩でもその真実の姿を見るために努力をすることは無益なことではない。」

最初にこの『雪』の本が書かれたのは昭和14年のことでした(太平洋戦争のきな臭い空気が漂い始めた時代です)。この発言は、自然現象に向かう場合だけでなく、社会全体に対しても、今日において重要な意味をもっていると感じています。

 

また、中谷先生は、本書の各ページでどのように自然科学の研究をしてきたかを著していますが、真冬の厳寒の十勝岳中腹にこもり、気温零下10度から15度のなかでの長時間に及ぶ観察作業や、北海道帝国大学の低温研究室(-30~-50℃)の中での研究(外気との気温差が大きく、相当体にきつかったそうです)など、過酷な環境での研究によく耐えられたものだと感服いたします。雪の面白さ、魅力にとりつかれたのでしょうか。まっ白い雪の世界にいながら、赤く燃える火のような情熱で真摯にお仕事をなさっていたことでしょう。第11刷が出版されたのは戦後の昭和24年。それから13年後の昭和37年、62歳で、骨髄炎のため生涯を閉じました。

 

めったに雪が降らない西湘で育った私は、子どもの頃、六花状の雪の美しい形にあこがれて、雪が降ると手にとって虫眼鏡で見てみましたが、よく写真で見るような、あの樹の枝を広げたようなすばらしい形を見つけることはできませんでした。

中谷先生は「こんな結晶を見暮していると、いつの間にか自然の神秘に圧倒されてしまって、こんな物を人工的に作ろうとする企てすら、何だか自然に対する冒瀆のような気がしてくるのであった。」(岩波新書『雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集』とおっしゃっていますが、そんな気持ちを持ちながらも一生を雪の研究にささげた中谷さんの魂が、いまは雪となって天から降り続けているのかしらと、雪の日には空を仰ぎみて思い出すことでしょう。

(2016/7/25)

 

PSHIZ21

 

【9冊目】Data

 雪

 著者 中谷宇(なかやう)吉郎(きちろう)

 1994年10月 岩波書店

○ ○ ○ ○ ○ ○

このページに表示されるのは、㈱水やの運営関係のものであり、
発行元・著作者との直接の関係はありません。

○ ○ ○ ○ ○ ○

にほんの水

にほんの水

PAGETOP
Copyright © wp水や co.,ltd. All Rights Reserved.