016.しおつちのかみ

海に関わる神さま

 塩椎神(しおつちのかみ)  別名:塩土老翁神(しおつちおじのかみ)

                  塩筒老翁神(しおつつおじのかみ)

                  事勝国勝長狭(ことかつくにかつながさ)

 


 

 

 名義は「塩(しお)」は「潮(しお)」で潮流=潮路=海路のことを表しています。また、「椎(つち)」の「つ」は連体助詞、ちは「霊(ち)」=「精霊(ち)」を表しています。ここから「潮(しお)つ霊(ち)」となり、「潮流を掌(つかさど)る精霊」という事になります。

 

塩椎神さまのお名前は古事記の「海幸彦(うみさちひこ)と山幸彦(やまさちひこ)」の神話の中に記されています。このお話しはとても有名お話しなので、読まれたりお聞きになられたりして、ご存知の方も多いかと思われます。

 

 この神話は山幸彦(やまさちひこ)(=穂穂手見命(ほほでみのみこと))さまが兄の海幸彦(うみさちひこ)(=火照命(ほでりのみこと))さまから借りた釣り針を海中に落として無くしてしまいました。そのことを海幸彦さまに責められた山幸彦さまが、塩椎神(しおつちのかみ)さまの助けを受けてそれを探しに出かけたのが、海神(=綿津見神(わたつみのかみ))の宮でした。

「塩椎神(しおつちのかみ)さまの助け」とはどのようなものだったのでしょう。

 

山幸彦(やまさちひこ)さまが兄の海幸彦(うみさちひこ)さまから借りた釣り針を、返せないことを責められ、浜辺で悲嘆にくれていらっしゃいました。 その時、海上から塩椎神(しおつちのかみ)さまが現れます。塩椎神(しおつちのかみ)さまが山幸彦(やまさちひこ)さまに悲嘆にくれている理由をお尋ねになります。山幸彦(やまさちひこ)さまがその理由をお話しになると、

「私があなたのために良い謀(はかりごと)を考えましょう。」

とおっしゃられました。

 

そうして、塩椎神(しおつちのかみ)さまは「まなしかつまの小船(おぶね)」­を作って山幸彦(やまさちひこ)さまを乗せました。船を波間に押し出しながら「私がこの船を押し流しましたら、ほんのしばらくそのままお行きなさい。きっと良い潮路がありましょう。その潮路に乗っていらっしゃれば、魚の鱗(うろこ)のように棟(むね)を並べて造った御殿がありますが、それが綿津見神(わたつみのかみ)の宮殿です。その神の宮の御門にお着きになりますと、かたわらの泉のほとりに神聖な桂(かつら)の木があるでしょう。そしてその木の上に登っていらっしゃれば、その海の神の娘があなたさまを見て、ご相談にのってくださるでしょう。」と教えられました。山幸彦(やまさちひこ)さまはその教えに従って少しお行きになると、何から何までその言葉の通りだったので、すぐにその桂の木に登ってお待ちになられたのでした・・・。

その後、山幸彦(やまさちひこ)さまは釣り針を手に入れ、綿津見神(わたつみのかみ)の力も借りて地上へお帰りになりました。

 

 ちなみに「まなしかつまの小船(おぶね)」とは「まなし」は「目無(まな)し」、「かつま」は「竹籠」のことです。このことから「固く編んですき間の無い竹籠の小船」ということがわかります。海の底の龍宮に向かうには最適の小船といえましょう。

 

 塩椎神(しおつちのかみ)さまは、山幸彦(やまさちひこ)さまに「良い潮路に小船を乗せて行けば綿津見神の宮に行ける。」と言われ、「そこで綿津見神さまの娘が相談相手になろう。」とおっしゃいます。海の潮を掌(つかさど)る神さまであるということは、海路を掌(つかさど)る霊力を備えておられる神さまということです。潮流に乗って移動されるので、航海の水先案内人=航海神の役割を表しています。ちなみに、綿津見神(わたつみのかみ)さまは海の支配神であって、海中(いわゆる龍宮)にいて移動しません。また、別称の塩筒老翁神(しおつつおじのかみ)さまの「塩筒(しおつつ)」も潮路の神さまを表しています。さらに、綿津見神の宮行きを勧めたのは、問題解決の方法をお教えになった=情報提供をされたととらえることができます。

別名である塩土老翁神(しおつちおじのかみ)さまの「老翁」とは「人生経験豊富で物事を知り尽くした長老」というニュアンスが込められたものでしょう。

長老=物知りという観念は、世界共通です。

古来、人々は経験豊富な長老に教えを乞い、さまざまな物事に対処して来ました。

 

 船が安全に航海するためには、潮の流れや天候の変化などを正確に知ることが欠かせません。そのため、航海関係者は海上の未知の情報を掌(つかさど)る海の神さまに安全を祈りました。そういう海の神さまの霊力の神格化されたお姿が塩土老翁神(しおつちおじのかみ)さまです。

 

 同様なお話しが日本書記の神代下、神武東征にもあります。

神倭伊波礼毘古命(かむやまといわれびこのみこと)さま(のちの神武天皇)がまだ日向(ひむか)の地にお住まいになっていて、国の統治に適した場所を探していらした時に塩土老翁神(しおつちおじのかみ)さまから「『東の方に良い土地があり、青い山が取り巻いている。その中へ天の磐舟(いわふね)に乗って、とび降りた者がある』と。思うにその土地は、大業をひろめ天下を治めるによいであろう。きっとこの国の中心地だろう。そのとび降りてきた者は饒速日(にぎはやひ)というものであろう。そこに行って都をつくるにかぎる。」とお聞きになり、45歳にして東征を始められます。

そしてさまざまな苦難ののちに、神倭伊波礼毘古命(かむやまといわれびこのみこと)さまは東征を果たされ 建国を宣言し初代天皇となられました。このように塩土老翁神(しおつちおじのかみ)さまは未知の国(場所)に関する予言的な情報提供をされています。

 

 もう1つの別名の事勝国勝長狭(ことかつくにかつながさ)さまですが、これは「日本書記」の神代下、葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定に記されています。

「天津彦(あまつひこ)火瓊瓊杵尊(ほのににぎのみこと)さまが天孫降臨された時に事勝国勝長狭(ことかつくにかつながさ)が現れて、『ここに国があります。勅(みことのり)のままに奉(たてまつ)りましょう。』とおっしゃいました。それで天津彦(あまつひこ)火瓊瓊杵尊(ほのににぎのみこと)さまはそこにとどまられました。その事勝国勝神(ことかつくにかつのかみ)は伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の子で、またの名を塩土老翁(しおつつのおじ)という。」と記されています。事勝国勝長狭(ことかつくにかつながさ)さまとは「事に勝(すぐ)れ、国に勝(すぐ)れた、長くのびた神稲(さ)」の意味でしょうか。

 

 事勝国勝(ことかつくにかつ)の神さまは日本書紀では陸上の案内者ですが、塩土老翁(しおつつのおじ)さまは潮路の案内者です。陸上と海路のどちらも案内されるとはなかなかの御力(みちから)をお持ちです。古事記・日本書紀において天孫降臨時に先導された「猿田彦神(さるたひこのかみ)さま」や、葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定後に経津主神(ふつぬしのかみ)さまと武甕槌神(たけみかづちのかみ)さまを諸国そして東国へ案内したとされる「岐神(くなどのかみ)さま」とも先導・案内役として共通しています。

 

塩椎神(しおつちのかみ)さまをお祀する神社の総本宮である、宮城県塩竈(しおがま)市の塩竈(しおがま)神社の社伝には

「高天原から地上に降った武甕槌神(たけみかづちのかみ)さまと経津主神(ふつぬしのかみ)さまが、塩椎神(しおつちのかみ)さまに先導されて諸国を平定したのち、塩釜の地にやってきた。

武甕槌神(たけみかづちのかみ)さまと経津主神(ふつぬしのかみ)さまの2柱の神さまはすぐにそれぞれの本拠地(武甕槌神(たけみかづちのかみ)さまは鹿島神宮、経津主神(ふつぬしのかみ)さまは香取神宮)に去ったが、

塩椎神(しおつちのかみ)さまはこの地にとどまり、漁業や煮塩の製造法を教えられた。」とあるそうです。

 

 塩椎神(しおつちのかみ)さまはとくに東北地方では開拓の守護神、瀬戸内海地方では製塩の守護神としてお祀りされているようですが、海辺に限らず内陸にもお祀りされています。この場合は安産信仰の色合いが強いようです。

また、「まなしかつまの小船(おぶね)」のくだりから竹工の守護神としてもお祀りされています。

 

 塩は水と同様に生物にとっては生命を維持していくうえで、生理的に欠くことのできないものです。これは塩が調味料の基本であることからもわかります。また神道では(塩の含まれる)海に入って心身の穢(けが)れを祓(はら)ったりする儀式があるように、塩には身を浄める力を備えています。店先や地鎮祭の盛り塩や大相撲で土俵にまく塩、葬式の時の清めの塩なども清めの材料、縁起物として塩のもつ浄化する力を表しています。

このように特別な力を持つ塩は、日本では主に海水から造られて来ました。そのため塩の生産地の方々は製塩の守護神として海の神さまである塩椎神(しおつちのかみ)さまをお祭りされたのです。

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 漁業や製塩の事だけではなく、何かお導きを頂きたい時や良い流れに乗りたいと考えている時にも塩椎神(しおつちのかみ)さまに参拝されると良いかもしれません。

 

 

お祀りされている神社としては

   塩竈神社(宮城県塩釜市)

   胡宮(このみや)神社(滋賀県犬上郡多賀町)

   塩津神社(滋賀県伊香郡西浅井町)

   青島神社(宮崎県大字折生迫)

   益救(やく)神社(鹿児島県熊毛郡屋久町)

   その他、各地の塩釜神社

      などがあります。

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